はじめに
「株主優待のクロス取引は株価変動のリスクを避けて優待権利だけとれるのでお得」とか言われていますがコストは色々かかっています。もちろんそれは承知で利用しているし、だいたいの金利くらい計算はしているのですが、じゃあ
- 本当に自分の計算したコストが実際に徴収されたそれと合っているのか?
- いつ徴収されてるの?
- 実は自分知らない費用があって損してたりして?
とか、確かめた事は無かったので、今回実際にチェックしてみました。
もちろん証券会社を疑ったという事ではなく、自分のコスト認識が合っているかチェックしたというお話です。
優待クロスとは
念のため、おさらいです。
株主優待のクロス取引(つなぎ売り)とは、現物株の買い付けと信用取引による同一銘柄の空売りを同時に行い、株価変動のリスクを回避しつつ株主優待の権利だけを獲得する取引手法です。
具体的には、
- お目当ての銘柄の現物株の買い付けと信用空売りを同時に行い
- 株主優待の権利確定日をまたいで
- 権利落ち日に現物株で信用空売りのポジションを決済(現渡し)する
これで、株価の変動リスクを相殺します。(現物が下がっても空売りが上がる)
これにより、株価の上下動に左右されることなく、確実に株主優待を得られるのが最大のメリットです。
優待クロス取引にかかるコストにはどのようなものが有るか
優待クロス取引はリスクを抑えられますが、まったくの無コストというわけではありません。主に以下のコストが発生します。
- 売買手数料(買い・売り) 現物株の買い付けと、信用取引の空売りの際に発生する手数料です。証券会社によって料金体系が異なります。
- 信用取引にかかる金利(貸株料) 信用取引で借りた株を保有している期間にかかる金利です。権利付き最終日の大引けまで信用売りを保有するため、最低でも2日分の金利(貸株料)がかかります。
- 逆日歩(ぎゃくひぶ) 信用売りの需要が供給を上回った場合に発生する費用です。制度信用取引を利用した場合に、証券金融会社が株不足を補うために市場から株を調達するコストを、空売り投資家が負担します。
逆日歩は権利取得が終わってみないとわからない上に高騰すること有るため、クロス取引の最大の敵です。
ただし一般信用取引を利用すると逆日歩はかかりません。 - 配当落調整金 空売りで権利日をまたぐ場合、本来の株主に配当金が支払われるため、その分を補填する形で「配当落調整金」を支払います。
ただし現物株の配当金が入るので実質的にはゼロになります。
実際に計算してみた
そんな訳でまず実際の取引を例に計算してみます。
SMBC日興証券で2024年9月末に優待クロス(制度)で権利をとった名糖産業の例です。
他の証券会社だと数字が違ってくるのでご注意ください。
権利日に制度信用で両建てして、買い建玉を現引きし、権利落ち日に現渡しました。
| 銘柄 | 両建て | 現渡 | 株価 | 株数 | 逆日歩 | 配当金 |
| 名糖産業(2207) | 2024.9.26 | 2024.9.27 | 1871円 | 100 | 1日2.45 | 1700円 |
売買手数料(ゼロ)
SMBC日興は信用取引の手数料はゼロです。
現物買いは手数料がかかるので、制度信用で買った後にすぐ現引きします。
なので、制度信用買いの金利が1日分かかります。
信用買い金利(年利2.50%)
SMBC日興は制度信用買いの金利は年利2.50%です。
買い建ての当日に現引きしたので、金利は1日分です。
株価1871×株数100×金利0.025/365=12円
貸株料(制度信用:年利1.15%)
SMBC日興は制度信用売りの金利は年利1.15%です。
売り建ての翌日に現渡したので、金利は2日分かかります。
株価1871×株数100×金利0.0115/365×2日=11円
逆日歩(終わってみないとわからない)
今回の例では逆日歩が2.45円発生しました。日数は1日です。
2.45×100株=245円
配当金と配当落調整金
配当金は税金20.315%を源泉徴収されて残りが入金されます。
1700-(1700×0.20315)=1355円
配当落調整金は配当金額から所得税分15.315%を引いた金額になります。
1700-(1700×0.15315)=1440円
差し引きすると一見85円足りませんが、損益通算されて翌年に還付されるので結局プラスマイナスゼロになります。
配当金関係は気にしなくて良しです。
合計
| 売買手数料 | 0円(但し買い方金利1日発生) |
| 信用買いの金利 | 12円(制度信用:年利2.50%) |
| 貸株料 | 11円(制度信用:年利1.15%) |
| 逆日歩 | 245円 |
| 合計コスト | 268円 |
実際に徴収された金額を確認してみた
では次に、証券会社で実際に清算されているところを取引報告書で確認してみます。
証券会社はSMBC日興証券です。
信用買い金利(この例だと12円)
信用買い方金利は、建玉の決済・解消した日の取引報告書で確認できます。
この例では9月26日に信用買いをして、すぐに現引きしているので、9月26日の取引報告書で確認できます。
SMBC日興のトップページから 電子交付履歴 を押して、取引/取引残高報告書を検索します。
現引きした日(9月26日)を検索すると出てくる「取引報告書」PDFにのっているので確認します。
右下の「金利」の欄が信用買いで発生した金利になります。

貸株料(今回の例は11円)と逆日歩(今回の例は245円)
貸株料と逆日歩は、信用売りを解消した日の取引報告書で確認できます。
この例では権利日の9月26日に信用売りをして、翌日・権利落ち日の9月27日に現渡しているので、9月27日の取引報告書で確認できます。
SMBC日興のトップページから 電子交付履歴 を押して、取引/取引残高報告書を検索します。
現渡した日(9月27日)を検索すると出てくる「取引報告書」PDFにのっているので確認します。
右下の「金利」の欄が信用売りで発生した貸株料、品貸料が逆日歩です。

おわりに
今回の例では、制度信用クロスのコストについて、計算どおりの金額が、取引報告書で確認できました。
取引報告書で実際のコストを確認するなんてめんどくさい事する人はあまり居ないと思いますが、もしかしてどなたかの参考になれば幸いです。
株主優待クロス取引は、株価リスクを抑えつつ優待を手に入れる有効な手段です。しかし、そのメリットを享受するためには、発生するコストを事前に正確に把握することが重要です。特に、制度信用取引を利用する場合は、高額になる可能性のある逆日歩に十分注意しましょう。
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